まさかラーメンが選択肢の一つになるなんて

 

「ラーメン食お」

 

食事を選ぶ際、私の選択肢にラーメンはない。
胃腸が弱いので、ラーメンを含む油分の多いものはなるべく控えている。
それに加え、当時は食欲が皆無に等しい状態だったため、はるさんの誘いとはいえ食べ切れる自信がなかった。
その主旨を伝えると、二杯くらい余裕で食えるからと頼もしい回答を得た。

 

家系ラーメンという初めて聞くジャンルのお店へ連れて行ってくれるそうだ。
アットホームな感じなのかな。
他に何系ラーメンがあるのか後で聞いてみよう。
それより本当に二杯も食べられるのかな。
無理してほしくないな。

 

アットホームな想像とは裏腹に、いかつい外観の建物が視界に飛び込む。
メンマだけとかないのかと探しているうちに、はるさんは手慣れた様子で食券を買う。
初めて体感する店内の雰囲気に圧倒され、私は座席に小さく縮こまる。

 

「何でラーメンと一緒にご飯を頼むか知ってる?」

 

もちろん知らない。
はるさんは得意げに話し始める。
私は知らないことを教えてもらうのが大好きだ。
時折写真を見せながら、身振り手振りを使いながら説明してくれるはるさんの話しを聞いていると、早速ラーメンがやってきた。

 

もくもくと上がる湯気から濃厚な香りがする。
大きなどんぶりの中には、麺の他に海苔、ほうれん草、チャーシュー、メンマがスープに浸かっていた。
ラーメンを食べるのは何年ぶりだろう。
猫舌なので、これでもかというくらいふうふうと麺に息を吹きかける。
火傷をしないように慎重にすする。
麺にスープがよく絡んでいて口の中に濃い味がじわりと広がる。
濃厚さはしつこさを感じる前にとろけた。

 

はるさんはあつあつの麺に具を絡めながらズルズルと口に運ぶ。
その食べっぷりから、彼にとってさぞかし美味しいものなのだろう。
一緒に食べた気になって表情が緩む。
私は人が食べている姿を眺めるのがとてつもなく好きだ。

 

はるさんは一向に減らない私のどんぶりから麺をとる。
食べ終えたかと思ったら、水を飲むようなペースでスープを胃の中に流し込む。
スープも全部飲まないと完食したことにならないそうだ。
二杯くらい余裕やとペロリと平らげたはるさんを見て、私は胃を強くしようと決意した。
鍛え方は分からないけれど。

 

 

 

後日、友人と散歩をしていると見たことのある外観が目に留まる。
家系ラーメンだ。
今まで全く認識していなかっただけで、確かずっと昔からあったはず。
思わず笑みがこぼれる。
自分の世界にこれまでなかった新しいアンテナが立ってることが嬉しくて。

 

はるさん曰く、私はとても世間が狭い人間らしい。
その通りだ。
ずっと狭い場所に一人で閉じこもっていたので知らないことだらけだ。
でも知らないことを恥じるよりも、未知への好奇心の方が大きい。
素直に知らないと答えれば丁寧に教えてくれる人がいるのを知っている。
今知ってる世界よりもっと素敵なもの、面白いものに出会えるかもしれない。
その可能性にワクワクする。

 

「お昼はここがいい」

 

「え?!すごい脂っこそうだけど食べられるの?!」

 

私の胃腸事情に詳しい友人は驚いた様子で聞いた。

 

「胃薬あるから大丈夫」

 

そこまでして食べるのかと自分で笑えてくる。
今なら一人で食べられそうなのだ。
無理しないでねと何度も言ってくる友人が愛おしい。
そして私はずっと言いたくてたまらなかったセリフを放つ。

 

「家系ラーメンはご飯と一緒に頼むって知ってる?」

 

 

乳母日記

乳母日記