これからが、これまでを変えていく

 

「はるさんに名前をつけてほしいです」

 

汚い洋食屋に連れてったろと連れられた店内で、私のお皿からグラタンをつついていたはるさんは少しだけフォークを止めた。

 

「椿」

 

とっさにどんなお花でしたっけと無意味な質問を投げる。
そうでもして気を紛らわせないと、嬉しさでどうにかなってしまいそうだったから。
こんなん、と律儀にiPhoneで画像検索したのを見せてくれた。
もちろん知っている。
だって私の大好きなお花だから。

 

乳母になった日から私は椿になった。

 

 

 

"乳母を解散させます。"

 

その一言を目にした時、ほんの一瞬時間が止まった。
言葉の意味を正確に受け取り、感情に変換するまでに数十秒要した。

 

私は1つのことから、50種類の感情が湧き上がり、100通りの解釈をしてしまう。
思考のクセなのだろう、大半の解釈がマイナスなものになる。
際限なくネガティブな言葉が生まれ、私の心を蝕む。
たった一言が致命傷となることも少なくなかった。
それがずっと苦しくてたまらなかった。

 

乳母を解散させるという言葉もまた、私を動揺させるには充分すぎる一言だった。
私の記憶が正しければ、ついこの間乳母に誘われたばかりだ。
その時の衝撃は初回の日記に綴った。
シンプルに書くと物凄く嬉しかった。
しかし、どうやら終わりのようだ。
以前までの私なら、一体どうやって気持ちを沈めていたのだろうか。
驚くべきことに、今となってはもう想像することすら出来ないのだ。

 

乳母解散に寂しさを感じるより、はるさんが必要だと思っていた制度に、短期間ながらも自分がいたことを嬉しく感じる。
はるさんはこれからどんな新しいことを始めるのだろうか。
このワクワク感は、展開の読めないミステリー小説のページをめくる時の感覚に似ている。
リアルタイムで更新されていく動向から1秒たりとも目が離せない。
とめどなく溢れ出すマイナスな言葉の止め方を教えてくれた、彼の行く末をまだまだ見ていたい。

 

はるさんから受けたインスピレーションは計り知れず、芽生えた感情を言葉として紡ぎ出す瞬間は、心がまろやかな黄色で埋め尽くされた。
日記の下書きは現時点でザッと50件はある。
それを違う形で昇華させるかもしれないし、自分の中だけに留めておくかもしれない。
どちらにせよ、下書きはこれからも増え続けるだろう。

 

 

 

色々と書いたが、やっぱり寂しく感じてしまう自分を弱いとは思わない。
相変わらず感情が高ぶるとすぐに涙が溢れてくるが、泣くのは弱いことでも、悪いことでもないと知ってから、泣き方が上手くなった。
そして不思議なことに、涙に感情を乗せるとやる気が沸々とみなぎってくるのだ。
行動したくてたまらなくなる。
立ち止まっていられない。

 

過去は変えられないけれど、今を変えれば未来は好きなようにつくっていける。
そんな当たり前のことすら出来ないでいた自分を責める代わりに、今この瞬間から選択肢を変えていく。
空っぽだったこれまでは、いくらでもこれから塗りつぶせるのだ。

 

遠い未来で理想の私が待っているのが見える。
頑張ってここまで来てねと微笑んでいる。
待っていて、必ず追いついてみせるから。
きっとたどり着けると信じて今日も歩を進める。

 

 

 

私の日記を読んでくれて、どうもありがとう。

 

 

 

乳母日記

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